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両忘

引用/『skmt』

後藤繁雄氏が坂本龍一に聞き書きした『skmt』という本がある。
1990年代後半、後藤氏が彼に密着してその「思考」を聞き書きしたものだが、アーチストブックにありがちなドキュメンタリー風の構成がない。 発言は断片的、時系列で過剰な物語がなく、まさに言葉による"energy flow"をストレートに浴びることができる。 90年代のポップな『パンセ』といったらいいだろうか。

最近再読しているので、気になったところを引用、ご紹介していきます。
(ちなみにkskskはこの書名のパクリです、はい)

本日のお題。ウルトラQ。

「今、ゲームやってる人って20代、30代でしょ。みんな『ウルトラマン』世代なのね。 僕らは幸いなことに『ウルトラマン』じゃなくて『ウルトラQ』世代なんです。あれは断片的ですよ。哀しみがある。 物語なんてなくて、魚の格好してたり、ただ存在の苦渋に満ちてるだけでさ。 『ウルトラマン』以降は完全に「物語」でしょ。みんな『宇宙戦艦ヤマト』とかのアニメ世代だから。 だからゲームも物語性が強くって、チープな神話性みたいなのに回収される。ひとつの目的に向かって、突っ走って勝ち抜いていくっていうのはつまんない。 やっぱり、ゲームつくってる人もあらためて中上健次だとか、埴谷雄高とか読んだほうがいいよ」84頁

中上健次や埴谷雄高を読めって、坂本さんらしくて笑える。
でもたしかに、『ウルトラQ』世代って...わかる。むちゃくちゃわかる。

『ウルトラQ』というのは円谷プロが初めて手がけた特撮もののテレビドラマで、坂本さんがいうように、娯楽番組なのに妙に哀しくて、シリアスなリアリズムがあった。主役は無力な人間とそのときどきのモンスターで、ヒーローはいない。だから断片的。

ぼくらの世代は微妙で、『ウルトラQ』を見たのは(1966年の放映なので)4〜5才のとき。 それでも、ぼくも同級生の友人たちも、カネゴンや巨大植物ジュランのことはよくおぼえている。 後年の『ウルトラマン』や『ウルトラセブン』に夢中になり、そっちのほうに愛着があるのに、いろんなモンスターをおぼえているのはどうしてだろう。 幼児体験というべきか、これは立派なトラウマである。ぼくらはどっちの世代に属するのだろう。

20代から30代の終わりまで、映画や脚本に夢中になり、プロになることを目標としながらくじけて、さまざまな心理的クライシスもあり、 物語をどうしても完成できなかった自分。40をこえて、絵を描けと命じたのは『ウルトラQ』だったのか。 そういえば、自分があこがれていた映画はゴダールやジョナス・メカス。ヴェンダーズの『ことの次第』。断片だった。

これから死ぬまで絵を描きつづけるのか、また脚本を書いてみたくなるのか。
『ウルトラQ』を見たくなった。
by ksksk312 | 2007-06-03 11:00 | 断片集