両忘

グレン・グールドという希望。

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NHKの『知るを楽しむ』という番組でグレン・グールドが取り上げられている。あたらしい発見はないが、グールドの演奏風景やインタビュー映像がたっぷりと見ることが出来て楽しい。コメントをよせるゲストも吉田秀和、高橋悠治、坂本龍一等々、豪華。とくに高橋悠治さんは(実演を見る機会はあっても)テレビで演奏し、おしゃべりする姿なんてまず見られるものではない。かぶりついてしまった。

グールドのキャリアはビートルズに似ているような気がする。センセーショナルなデビュー、アルバムの爆発的なヒット、時代の寵児となり組まれた過密スケジュール、その後神経をやられてしまいあの前代未聞のコンサートドロップアウト宣言(ビートルズもキャリアの後半はコンサートをやらなかった)。ビートルズも革命児だったが、グールドもクラシックの演奏の伝統から完全に切れていた。

グールドの弾くベートーヴェンの「熱情」ソナタや30番のソナタを聴くと、男性的であったり枯淡の境地であったりという従来の曲のイメージがぜんぜん無いのにおどろかされる。曲や作曲家の全体像、真実を追求することよりも、自分が共感する音符に耳を澄ませ、音楽と自由に対話するのを楽しんでいるようにみえる。

古楽器や演奏法の研究が進んで、いわゆる伝統的な曲のイメージはずいぶん壊れてきたけれど、それでもクラシックの世界で追求されるのは作曲家の「全体像」であり曲の「真実」であり、近代的な意味での聴衆への啓蒙だと思う。グールドのように、自分の好きなように譜面を読み、個から個へとアプローチするアーチストは未だほとんど存在しない。

そんなグールドだが、番組のナビゲーター宮澤淳一さんによると「彼は作曲家として成功したいという野心があった」という。これはおもしろいです。

たしかにグールドの演奏はどれも大胆で、ここまで自由にやるなら自分で作曲したほうがいいんじゃないかと思ってしまう。しかし作曲家としてのグールドは、伝統とぜんぜん切れていないのだ....。高橋悠治さんはグールドの曲を弾きながら「シェーンベルクと技法だけでなく楽想まで似ている。よく勉強しているけれど作曲家としてはどうかな?」とコメントしている。ようするに保守的でオリジナリティにも欠ける、ということ。そして、グールドがコンサートをドロップアウトした頃の現代音楽の潮流はというと、図形楽譜にチャンスオペレーション、電子音楽、ケージ、フルクサス等々....。そんな時代に12音技法による音楽など、いかに緻密で完成度が高かろうと(もはや時代おくれで)耳を傾ける聴衆はいなかっただろう。

もし、グールドの指にあの運動神経がなかったら、彼はどこかの音楽大学で保守的な作曲の教授として終わっていたような気がする。それが演奏芸術とテクノロジー(録音)という「別のフィールド」との接点を持つことによって、革新的で未曾有の仕事を遺すことになったのだ。これはひとつの希望として、ぼくの目にうつります。




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グールド、マイベスト。
++
バッハ演奏。

01.パルティータ第1番変ロ長調 BWV 825
(16才で初めて聴いた。泣ける)
02.平均律クラヴィーア曲集第1巻 BWV846-869
(24曲ぜんぶいい)
03.トッカータホ短調 BWV914
(大好き)
04.ゴールドベルグ変奏曲 BWV988
(1959年ザルツブルグ音楽祭ライブがいいんです)
05.インヴェンションとシンフォニア BWV772-801
(聴きまくりました)
06.フランス組曲第2番ハ短調 BWV813
07.平均律クラヴィーア曲集第2巻第14番嬰ヘ短調 BWV883
(泣ける)
08.イギリス組曲第1番ト長調 BWV806
(わくわくする)
09.トッカータト短調 BWV915
10.パルティータ第2番ハ短調 BWV826 
(最高)


バッハ以外の演奏。

01.シェーンベルク ピアノ協奏曲 作品42
(美しい。カンディンスキーの絵のようだ)
02.ギボンズ ファンタジアハ調
(エリザベス王朝時代のヴァージナル名曲選より。名盤)
03.モーツアルト ピアノソナタ第5番ト長調 K283
(第2楽章メヌエットの陶酔!!)
04.ベートーヴェン 7つのパガテル 作品33
(7曲ぜんぶ好き)
05.ブラームス 間奏曲 作品117
(名盤)
06.モーツアルト ピアノソナタ第7番ハ長調 K309
(キュートでパワフル。6番のデュルニッツもいいよ)
07.ベートーヴェン ピアノソナタ第30番ホ長調 作品109
(すばらしい)
08.ハイドン ピアノソナタ第50番ハ長調
09.スカルラッティ ソナタト長調 作品486
10.ベートーヴェン ピアノソナタ第1番ヘ短調 作品2-1
(すごくいい)
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by ksksk312 | 2008-05-27 23:37 | 読書美術音楽、etc