両忘

『現代美術は語る』から。

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1970年頃、エミール・ディ・アントニオという映像作家がアメリカのモダンアートの作家たちにインタビューしてドキュメンタリー映画を撮っています。メトロポリタン美術館で開催された展覧会「ニューヨークの絵画と彫刻1940-70」展にあわせて製作された映画で、当時存命だった重要なペインターはほぼ網羅、画商(レオ・キャステリ)、コレクター(スカル夫妻)、著名な評論家も登場している。映画は見たことは無いんだけど、本にまとまっていて(映画にならなかったインタビューを相当含む)、読むことが出来ます。

『現代美術は語る』エミール・ディ・アントニオ、林道郎訳(青土社)。
すごくすごく、おもしろいです。作家たちと関係者の言葉で語られるアメリカ戦後美術史。入手困難な本だけど、図書館で借りて読めます。

インタビューの中から少し引用します。

われわれのうちの何人かは、作品から対象となるものをすべて取り除きました。怠惰な裸体、花、その他ごちゃごちゃしたもの、つまり最終的には何かしら物語めいたものへと還元されてしまったようなものを、です。....人々は当時美しい世界を描いていましたが、ちょうどその時、われわれは、世界は美しくなどないことを認識したわけです。問題は、われわれおのおの−デ・クーニング、ポロック、そして私−が解明しようとした倫理的な問題とは、「美化すべき何が、いったいあるというのか?」というものでした。だから、きっかけとなる唯一の方法は、まず、美化されうる外側の世界というような観念のすべてを捨さること、そして、われわれ自身にとって重要な何かを表現できる可能性−それは人々がミディアムと呼ぶものですが−を見つけることができるようなポジションへと自分自身を置くことだったのです。(バーネット・ニューマン) 

イーゼルを離れ、小さな絵画から壁画へ、あるいは壁のように大きな絵画へと移行すべき時だと、彼(ポロック)は感じていたし、はっきりと言葉に出しても言ってました。彼は、ナハヴォ・インディアンたちが砂漠で絵を描く時のように、フロアの上で描いたのです。(彼は、西部の出身で、ナハヴォ・インディアンの伝統を知っていたのです)。フロアの上で、四方から、しかも、単なる筆描きや手首を動かすだけでなく、腕全体をキャンバスの上を横切るように動かしながら描いたのです。(ヘンリー・ゲルトザーラー)




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その当時は、残り物塗料が、僕の予算にぴったりだった。ダウンタウンに行けば、1クォート缶が10セントという感じでした。というのは、誰も中の色を知らなかったからなんです。(ロバート・ラウシェンバーグ)

ブリジッド・ポークが、僕の作品を全部作っているんですよ。でも、彼女は、作品については何も知らないんだ。(アンディ・ウォーホル)

趣味というものが、同時代のアートに関しては最も誤りを犯しやすいものだという事実は、既に人々の心に浸透しています。そこで人々は、過去に犯された過ちと同じ過ちを犯すまいと努力するのですが、それは無駄というものです。人は、「次のセザンヌこそ見誤らないぞ」とか「次のポロックこそ見誤らないぞ」と言い、次のセザンヌ、次のポロックの中に同じように価値のあるものを見つけようとします。でも、結局、またぞろ同じ過ちを犯すことになります。....歴史からほとんど何も学ばれていないのと同様、美術史からもほとんどなにも学ばれていません。(クレメント・グリーンバーグ)

個人的にはラウシェンバーグの言葉に共感です。
画材を選べないところからコンバインペインティングは始まったのだ。

グリーンバーグの言葉は、ポップアートへの批判として語られたもの。「次のセザンヌこそ、次のポロックこそ」というくだりは、趣味流行に振り回される批評家(背景には、印象派を評価できず大恥をかいた批評の歴史がある)への警鐘のようだ。....しかし彼の予想(希望)に反して、現代はサブカルなアートが市場を席巻しまくっているわけで、彼もまた歴史に学べなかったということか。

価値というものはいったい誰が決める(発見される)のだろう? 大衆か、作家か、それとも批評家か....。わからないけど、わからなくてもいいや。自分の中で回転する歴史だけを信じればいい。

現代美術の源流となったニューヨークのアートシーンも、この本で読む限り、すごくこじんまりした世界だったのが実感できます。いまの東京とかニューヨークとか、そんな大都市を想像してはいけない。ひょっとするといまの福岡をすこし大きくした程度の、そんなコミュニティだったのではないか。また、この本ではハプニングやイベントなど、反芸術的な作家たちはまったく取り上げられていません。本の原題は「 painters painting 」。邦題は内容を正確に反映していないかも知れません。
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by ksksk312 | 2008-06-20 01:09 | 読書美術音楽、etc